回る背骨

制作メモ

デジタルとアナログ

音楽制作において、デジタルとアナログの違いが気にならない人はいるのだろうか。
僕はアナログの環境に拘りたくなったり、やっぱりデジタルの利便性が欲しくなったり、みたいなことをよく繰り返しているので、このことについて考えてきたことをまとめた。
 

音の違いと制作手法の違い

音楽を作っていると、デジタルとアナログの違いを意識することはよくある。
大きく感じることの一つは、アナログの機材の音の良さである。これはシンセサイザーエフェクターに拘ったことのある人なら誰でも一度は感じたことがあると思う。
もう一つは制作フローの違いである。パソコンを使って音楽を作るのと、機材に触って作るのでは、感触が大きく異なってくる。
正確にいえば、手で触れる音楽機材の全てがデジタルなわけではないし、パソコンで制作しながらアナログ機材を取り入れることもあるが、使い勝手の面でアナログとデジタルの違いを感じることは確かにある。
 

デジタルはアナログを超えられない?

デジタルとアナログの音の違いとして、物理的な要素の影響がある。
アナログ機器は電気回路の中の部品の特性を利用して音を出すため、回路図が全てではなく、物理的な影響が必ず生まれる。
それらを制御しているのが人の意図だとしても、元々の特性は自然にあったもので、人間が始めから作ったものではない。
デジタルの場合はそういった自然界の物理的要素を元にして、人工的に0から生み出したものなので、限りなく精巧に似せることは出来るが、元のものを超えることは出来ない。
あくまでオリジナル(アナログ)に近づくだけであって、それ以上がないのだ。
この傾向は音楽以外の分野にもいえることで、デジタルという制限を普段から知らぬ間に我々は受けていて、それが逆説的にアナログの良さとなっている。

また、部分的に完璧に再現したとしても、ニュアンスを表現出来なかったりする。
例えば楽器の音を録音して、実機と同じ音で鳴らすとしても、実際に楽器に触れて演奏する場合のノイズなどを含む多様な表現まで生み出すことは難しい。
デジタルでも音の強弱を変えたり、演奏にランダム性を付加することは出来るが、バリエーションにはあくまで限界がある。
 

デジタルは様々な音を誰にでも使えるようにした

しかしデジタルが普及したのにはもちろん理由がある。
例えばデジタルは、コンピューターを使った高度な演算によって、自然界では難しい音の生成が簡単に出来たりする。
また、実機を持つには場所とコストがかかるものだが、デジタルなら小さいチップの中に全て収納することも可能だ。
そして、デジタルの最大の利点は、データの複製がいくらでも出来る点だろう。
世界中の人々が作った膨大なライブラリが劣化することなくコピーされていく。
一部のお金持ちやミュージシャンしか所有出来なかったような機材も、デジタル化することで誰にでも気軽に導入できるようになったことは、かなり重要なことのように思う。
 

音楽制作のツールとして

音楽は元々、ジャンルや作りたいものによって手段が異なるものだ。
クラシックとロックでは演奏する人の楽器が異なるし、そんな例に頼らずともほとんどの音楽は楽器や機材の恩恵を多分に受けている。
だから制作のワークフローにおいて、デジタルとアナログのどちらがいいかは人それぞれだし、新しく画期的な手法が登場すれば、今までと同じように変わっていくだけだ。
デジタルとアナログを二つに分けて考える必要さえなく、その時々に応じてどちらも使うのは当然だろう。
たくさんの制作方法があった方が飽きないし、機材への不満や制限がインスピレーションを生むことさえある。
重要なのは、自分が何にインスピレーションを受けるかということだ。
 
その上で思うのだが、デジタルとアナログには制作フローにおいても大きな違いがある。
例えばデジタルの場合は音源などのデータが物理的に劣化することはないが、コンピューターの性能だったり、ソフトウェアのアップデートなどをチェックする必要があり、音楽に直接的に関係ないことに割く時間が生まれやすい。
また、操作面においても、マウスやキーボードやフィジカルコントローラーなどいろいろあるが、あくまで直接的に音を鳴らしているのではないので、音源との関連付けやコマンド入力が必要になってくる。
こういった問題を解決できる人なら、デジタルの長所である利便性を駆使して、アナログ以上に制作に集中できる環境を作れるだろう。
自分の作りたいもののイメージが明確で、そこから逆算していけるなら、デジタルを上手く活用できるような気がする。

反面、アナログ的なやり方は直感に頼った操作のため、偶発的にアイデアを生み出しやすいメリットがある。
歌を歌ったり、生楽器を演奏することは、何も知らない子供でも出来たりする。
自分でも昔テープに適当に録った音源などを聞くと、その時の自分がすごく楽しそうに感じたりする。当時からしたら、リズムを同期することさえ不自由だった。
モジュラーシンセイサイザーがここにきて人気なのも、アナログによる偶発性が新しいアイデアを生み出してくれるからだと思う。完成計から逆算していうのではなく、素材を足して作っていく楽しさがある。
また、あくまで物理的な制限があるからこそ、工夫を凝らすことになり、新たな発見が生まれることもある。
今デジタル化されている情報も、元々はそうやって地道に生み出されてきたのであって、何にせよアナログ的な部分が創作の肝になることは間違いない。
 

プロセスの意味

デジタルとアナログには双方にメリットがあり、僕たちはその時々に応じて好きなものを使う。
正解があるかは分からないが、そうやって試行錯誤するのもクリエイティブの一面だとすれば、プロセスの中にも本質があるということになる。
例えるなら、男女が恋に落ちたとき、子供が生まれるのが「結果」で、恋が「プロセス」だ。
子供を大事にするのか、恋愛を大事にするのか、辿り着くのはそのような人生観ではなかろうか?(終)