回る背骨

制作メモ

アンプシミュレーターとサチュレーター

アンプシミュレーターとサチュレーター。
それぞれ全然違うもののようですが、僕は案外似ているような気がします。
どちらもいろいろなメーカーによるプラグインが数多くあって音作りの迷路に迷ってしまいがちなところがあります。

伝説的なアナログシンセサイザー「ミニモーグ」をモデルにしたソフトシンセなんかにも思うことですが、アナログ機器のシミュレートは実物が偉大なだけにプラグインで完璧に再現するのが難しく、その不完全さゆえに次から次へと新しいプラグインが生まれるという循環があるように思います。

たくさんの選択肢があって、使いどころが難しいですが、これらのプラグインはどんな風に使えばいいのか考えてみました。

 

Amp Simulator

アンプシミュレーターの目的

もともとのギターアンプの役割は音を増幅することだが、意図的に過入力して音を歪ませたり、アンプに付いているEQやリバーブで機種ごとに様々な音作りが出来る。

アンプシミュレーターは、それらの機種をシミュレートし、実物のアンプやキャビネットなしで、本物を鳴らした時のような音を再現することを目的としている。

用途としては実機同様、エレキギター/ベースが最も一般的だが、キーボードなどの電子楽器はもちろん、ドラムなどの打楽器や、ピアノなどのアコースティック楽器に使うことも考えられる。

特にコンピューターでの音楽制作においては、無機質な音にアナログな質感を与えるために使う、サチュレーター的な使い方を考えてみてもいいかもしれない。
また、スタジオ環境(アンプ、キャビネット、マイク)を再現するという意味では、リバーブと似たような使い方も出来る。

プラグインのアンシミュは実機に倣って、音を増幅するアンプ部と、音を出すキャビネット(スピーカー)部に分かれていることも多く、用途によって組み合わせたり、あるいはどちらか一つしか使わないということも出来る。


アンプとキャビネット

アンプを単体で使う用途としては、サチュレーションオーバードライブ/ディストーション効果が欲しい時だろう。
キャビネット無しの場合、アンプで増幅した音を(スピーカーで鳴らさずに)ライン録音するイメージで使える。

逆にキャビネット単体で使う場合は、音の増幅部分(アンプ)を省略するので、単に「スピーカーで鳴らした音」の再現となる。
これは室内の反響音などを再現するバーブにも似ていて、現実の空間をシミュレーションするのに使える。


Saturator

サチュレーターとは

おそらくサチュレーターという言葉が普及したのは、音楽制作がコンピューターで行われるようになってからのことで、それまでは概念自体があまりなかったのではないかと思う。
つまりオーバードライブやディストーションで歪みを積極的に作ることはあっても、「音に少しだけ温かみを加える」とか「アナログ感を加える」という現在のサチュレーターのような用途は少なかった。

もちろん、エンジニアや機材マニアの間で有名なミキシング・コンソールやプリアンプが、同じような用途で使われたことはあっただろうけど、それらはミキサーやプリアンプが機材本来の役割を果たした上で、付加的に機種の個性があっただけで、普通の機材でこだわりなく作ったり、マイナーな機材をあえて使っていた人もいたはずだ。

プラグインのサチュレーターも機種ごとの個性を再現しているものが多いが、機材ごとの違い以前に「アナログ感」が重要なのだと思う。
デジタル環境で普通に作っていれば、ミキサーもエフェクトも豊富にソフトウェアがあるわけで、本来の役割はそれで充分果たせるはずだ。
それでもサチュレーターが必要なのは、デジタル環境が利便性と引き換えに失った「何か」を取り戻すためで、この部分の再現はデジタル環境にとっては最も難しい課題でもある。

なお、サチュレーターとして使われているプラグインは主に下記のようなアナログ機器をシミュレートしている。

  • チャンネル・ストリップ
  • プリアンプ
  • 真空管アンプ
  • テープレコーダー


ギター用のアンプはこれらと比べても多くのプラグインが存在していて、サチュレーター的に使える可能性があるが、全体的にディストーションが強めのものが多いので、原音をあまり加工したくない場合はあまり向いていないかもしれない。
逆に積極的に音を加工したい場合は、ギターに限らずいろいろな音色で試してみる価値はある。

しかし、(サチュレーターも含めて)これらのシミュレーターが、モデルとなった実機に追いつくことは難しいかもしれない。
どのレベルで満足するかということだろうが、この道を追求し続ければ、最終的には実機に行き着くような気もする。
ソフトウェアの限界を感じたら、リアンプしてみたり、本物のテープに録音してみた方が、結局早く目的に近づけるのかも。