回る背骨

制作メモ

Ableton Live Packのモジュラーシンセサイザー「OSCiLLOT」の使い方

わざわざパッチング?
シンセサイズという古い遊び。

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Moduler Synthsizer

シンセサイザーがまだ楽器ではなく、研究機材のように扱われていた頃、パッチングと呼ばれる配線により、どこからどこへでも自由に変調をかけることができた。*1

現代になってそのモジュラーシンセサイザーが注目を集めているのは、デジタルにはない「アナログの質感」が貴重になってきたからだろう。

ユーロラックのモジュラーシステムは、様々なデベロッパーの開発したモジュールを組み合わせて、オリジナルのシンセを作れるところが魅力だ。

OSCiLLOT

OSCiLLOT | Ableton

コンピュータ上でそのモジュラーシステムを再現したのが、M4Lのオシロットだが、それぞれのモジュールにユーロラックのような多様性はなく、実際にはほとんどが開発元の用意したヴァーチャルモジュールを使う。*2

最近のソフトシンセと比較しても、「音が作りやすい」「個性的な音が出せる」とも言えず、世の中にある様々なソフトシンセは、既にオシレーターを多様な波形から選べたり複雑な音作りが可能だったりするし、有名なものはそれぞれに膨大なライブラリも備えているので、音色のバラエティという点ではOSCiLLOTはむしろ不利かもしれない。

では『OSCiLLOT』の特徴は何だろうか?

 

パッチングによる音の実験

OSCiLLOTが再現しているのは、モジュラー特有の機能である「パッチング」による音の実験である。音のしくみ(音程、音質、音量など)を分解して自由に組み替えることができる。

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ソフトウェアであることの利点として、モジュールを追加するのに物理的コストがかからないし、各モジュールの配置を画面の中で自由に動かせるので、パッチングの状態が視覚的にわかりやすい。

接続順を間違えると音が鳴らなかったり思ったように動作しないことがあるのはアナログと同じなので、音の流れを理解したり、思いつきを試してみるには打って付けだ。ソフトシンセなどの複雑なパラメーターを使いこなすための教材にもなるだろう。

さらにいえば、そもそもシンセサイザーの面白い所は、「音」よりも「音作り」かもしれず、その意味ではOSCiLLOTにはいろいろと楽しむ方法が隠れている気がする。

しかも単にシンセサイザーだけでなく、「サンプラー」「シーケンサー」「エフェクト」などもモジュール化されていて、拡張性が高い点は、ReakorやMaxのようでもあるが、それらよりもっと簡易的で特別な学習なしに始められる。モジュール自体の制作より、モジュラーシステムのパッチングに特化している。*3

 

OSCiLLOTの使い方

OSCiLLOTは、アナログシンセの基本的な知識と、CV/Gateとオーディオ信号の流れさえ理解できていれば、難しいことを考えずにいろいろ接続できる。

気に入った組み合わせはプリセットを保存できるし、本物のモジュラーシステムと違いポリフォニーで鳴らすことも可能だ。

 

パッチングのための基本知識

OSCiLLOTは、プログラミングの手法を学んだり難解なソフトウェアのマニュアルと格闘しなくても使えるので、案外、初心者向けの入門用シンセサイザーにいいかもしれない。
おおよそ下記のような(あらゆるシンセサイザーに共通する)基本的知識さえあれば始められる。

アナログシンセの3要素

アナログシンセサイザーは電圧によって音を制御している。
基本となる信号の流れはオシレーター⇒フィルター⇒アンプで、それぞれのモジュールは下記の働きをします。

オシレーター(VCO): 音の原型、音程を決める
フィルター(VCF)  : 特定の周波数域に変調を加えて音色を変える
アンプ(VCA)   : 音を鳴らしたり止めたりする、音に時間的変化を与える

モジュラーで使われる電気信号

モジュラーシンセサイザーは、電気信号のやり取りを、パッチングと呼ばれる配線を使って自由に変更することができる。
電気によるコントロール信号には大まかに二つの種類があり、これらの組み合わせで「音の鳴り方」を決めていく。

CV:音程をコントロールする(モジュールによって速度・深度・存続時間などもコントロールする)
Gate:信号のオン/オフをコントロールする(オンのみを送るTriggerなどもある)

 

 

1.基本配線

基本的な構成(キーボードを使って音を鳴らす)

まずは基本となるシンプルなシンセサイザーを組み立てる方法です。
簡単な動画を作ってみました。(録音レベルを失敗してしまい、すごく小さい音になってしまって、すいません)

M4L OSCiLLOTの使い方1 音の出し方(VCO VCF VCA)

各モジュールの説明をすると、

MIDI to CV:キーボードなどの演奏情報(MIDI)をCVに変換します

OSC A:MIDI to CVから音程を受けて音を出します(オシレーター

Ladder LP:OSC Aのオーディオ信号を受け取り加工します(フィルター)

VCA:Ladder LPで加工されたオーディオ信号を受けながら、MIDI to CVのGate信号を受け取り出力します(アンプ)

Audio Out:Liveのミキサーに出力します

 

オーディオ信号の流れは単純で、オシレーターから発音し、フィルター・アンプを通過してAudio Outへと送られていきます。それに対し、コントロール信号(CV/Gate)はオーディオ信号の流れとは無関係に各モジュールに作用し変調を加えることができます。

今回の場合、キーボードを押すと音が鳴りますが、実はオシレーター自体はキーボードを押さなくても電源が入っている間中、音は鳴りっぱなしになっています。
鍵盤が押されている間だけ音が鳴るのは、VCAがオーディオ信号をせき止め、Gate信号が流れてきている間だけそのオーディオ信号を出力するからです。

【Oscillator】

オシレーターは上部メニューの「Oscillator」に含まれる15種類から選択できる。
CVinから音程を受け取り、OutputにはVCFやVCAなど、オーディオ信号の出力先を接続します。

【Filter】

フィルターは上部メニューの「Filter」に含まれる9種類から選択できる。
VCOなどから受けたオーディオ信号の周波数に変化を与えます。
オーディオ信号が入力されていなければ、何も出力しません。

【VCA】

VCAはオーディオ信号をせき止め、CVinにコントロール信号が流れてきている間だけそのオーディオ信号を出力します。

 

 

2.時間的な変化(モジュレーション)を与える

次に、音に時間的変化を加えていきます。
一般にEG(エンベロープ・ジェネレーター)とLFOと呼ばれるモジュールです。ここまでがアナログシンセサイザーの基本構成になります。

 


Ableton Live OSiLLOTの使い方2 ADSRとLFO

【Modulator】
> ADSR(EG/エンベロープ・ジェネレーター)

ADSRはGate信号を受けると、時間的変化を与えるCV信号を出力します。
具体的には「アタック(A)、ディケイ(D)、サスティーン(S)、リリース(R)」の四項目で設定します。
一般にはVCAのCVに送って、「自然な音量変化のある音」を作成したりします。(これはほぼ全てのシンセサイザーに共通した接続方法です)

しかしVCA以外の様々なモジュールにも繋ぐことができ、同様の時間変化のパターンでフィルターを変化させたり、音程を変化させたり、あらゆるモジュールに繋いでみることが出来ます。

> LFO

人には聞こえない低周波の音を発振して、周期的に変調させるのがLFOです。
「揺れの速度(Rate)、揺れの幅(Depth)」を設定できます。
LFOは「揺れ」を与えるためのモジュールなので、特定の役割を持っているというより、とにかく何かを揺らしまくるのです。

ADSR同様、配線次第であらゆるものに変調を加えます。違いはLFOの揺れが周期的であるということです。この周期的な揺れは音楽的にも古くから使われています。代表的な効果として下記のものがあり、これらはLFOによって再現できます。

・音量を揺らす(トレモロ
・ピッチを揺らす(ビブラート)
・フィルターの開閉を揺らす(ワウ)

 

3.いろいろなモジュールを追加してみる

OSCiLLOTは、アナログシンセを構成する基本的なモジュールだけでなく、様々な役割を持ったモジュールが用意されていて、自由に接続できます。

下記の動画では、LFOをクロックのように使ってシーケンサーモジュールを動かしています。これは一例ですが、モジュラーシステムならではの使い方は色々あると思います。


Max for Live OSCiLLOTの使い方3

 

下記はS&Hモジュールを使ってランダムにサイン波を鳴らしている動画です。


Max for Live OSCiLLOTの使い方4 S&H

 

他にも色々なモジュールがあります。

【Sampler】

オーディオ素材を読み込める。ルーパーもあります。

【Proceccor】

入力された信号に演算的処理を施す。(フィードバック、クオンタイザー、エンベロープフォロワーなど)

【Mixer】

信号のルーティングに便利なミキサー。複数のオシレーターを合成して音作りするときなど。

【Shaper】

入力された信号の波形をシェイパーを通して成形して音をクリップさせ、ディストーションなどの効果を生む。

【Effect】

ディレイやリバーブなど様々なエフェクトもモジュールとして組み込める。
他社製のプラグインVST/AU)もモジュール化できる。

【Sequencer】

音程やタイミングを決めて自動演奏できるシーケンサー
CV制御できるクラシックなステップシーケンサーSEQ8)や、クロックの送信/テンポ情報を送る(CLOCKER)、音源付のドラムシーケンサーHIT)など。

【Logic】

パッチ作成を補助するツール。

【Utility】

レベルメーターやアナライザーなどのユーティリティ。

*1:松前公高のシンセサイザー・セミナー|KORG INC.より引用しました

*2:ユーザーによってパッチが公開されていたり(Topic: OSCiLLOT PATCHES SHARE |)、開発元のMax for Catsで公開されている開発キット(Max for Live)を使ってモジュールを自作することも出来る Software Development Kit |

*3:ReaktorやMaxなどはソフトを自作できる開発プログラムですが、OSCiLLOTはあくまで仮想モジュールシステムなので、Moog Modular Vのようなソフトシンセに近い